その展示を見た瞬間、なんだか胸のあたりがきゅっとなりました。

先日、オカムラが開催している「未来の職業展」に行ってきました。AIが仕事をどう変えるか、というテーマの展示なのですが、想像していたよりずっと、人間の「感じる力」に向き合うような場所でした。

中でも一番心に残ったのが、「ジェスチャーオーケストラ」という、2045年に存在するという未来の職業*です。
特別な楽器も、音楽の訓練も必要なく、ただ身体を動かすだけで音楽が生まれます。しかもその音は、自分の感情そのものを映し出すといいます。

AIの時代に、なぜ身体で表現することが大切なのか。音楽と身体の関係の歴史から、これからの表現の可能性まで、まずはこの前編でじっくり紐解いていきたいと思います。そして実は、この展示には実際にジェスチャーオーケストラを体験できるブースもありました。その10分間で何が起きたのかは、後編でたっぷりお伝えします——まずは、この不思議な仕事の正体から。

  • 株式会社オカムラが、保有する特許技術とAI予測から、2045年にあると予測している「未来の職業」のうちの1つ
オカムラ「未来の職業展2045」会場の様子
オカムラ「未来の職業展 2045」会場の様子。

AIが「上手い」を独占する時代に、何が残るか

展示のはじまりは、少し不安になるような問いかけでした。

2045年、AIによって生成されたコンテンツが溢れかえる世界では、あらゆるアウトプットが「平均的な最適解」へと収束していくかもしれない——と展示は語りかけてきます。文章も、音楽も、映像も、AIがいつでも上手く作れてしまう時代。そうなったとき、わたしたちは自分が何を好きか、何を感じているか、そういった感覚を自分で育てることが難しくなっているかもしれない、と。

その反動として生まれるのが「ヒューマンルネサンス」——人間らしさの再発見、という流れで展示は続きます。場所に赴き、身体で体験すること。感情や記憶といった、データに変換しきれないものを大切にすること。

読みながら、「あ、これってわたしたちがBODYGRAPHYでやろうとしていることだ」と思いました。

展示の世界観を丁寧に伝えるパネルと、今回のデモ体験で使用するグローブの展示

身体はずっと、最初の楽器だった

展示の中に、音楽と身体の歴史を辿るスライドがありました。これが思いがけず、いちばん刺さりました。

人類にとって、最初の「楽器」は身体そのものでした。手を叩く、声を出す、足を踏み鳴らす。それが音楽のはじまりでした。やがて人は道具を作り、木や皮や金属を使った楽器が生まれました。楽器は身体の「拡張」だったのです——感情を、もっと遠くまで届けるための。

でも時代が進むにつれて、楽器はどんどん専門化していきました。バイオリンを弾くには何年もの訓練が要ります。ピアノを弾くには楽譜が読めないといけません。気づけば、音楽を「演奏する人」と「聴く人」の間に、高い壁が生まれていました。

そしてデジタル化の波で、音楽はコンピュータの中に入りました。制作の自由度は増したけれど、音を鳴らすことと身体の結びつきは、さらに希薄になっていきました。

そしてスライドは、こんなふうに締めくくっていました。これからの時代、表現の主役は再び身体に戻ってくる、と。音楽の目的が「うまく演奏すること」や「情報を届けること」から、「感じることを探ること」「自己観測や感情の共有」そのものへと変わっていく、と。

わたしは展示パネルを何度も読み返してしまいました。私も考えて、感じてきたことそのままだったから。

オカムラ「未来の職業展2045」音楽と身体の変遷を示す展示ボード。身体性の回帰までの5段階を図解
音楽と身体の変遷を示す展示ボード。身体性の回帰という視点に、強く引き込まれました。

ロボットの「指先」から生まれた技術

ジェスチャーオーケストラの根幹にある技術を知って、少し驚きました。

もともとはロボットハンドのために開発されたものだといいます。物をつかむとき、ロボットは「壊さず、落とさない」絶妙な力加減をリアルタイムで判断しなければなりません。その微細な反力を感知して最適な握力を導き出すアルゴリズムが、今度は人間の指の動きや感情を読み取るためのシステムへと応用されています。

わたしは今、ロボット企業の広報の仕事もしているので、こういう技術の話はわりと聞き慣れているつもりでした。でも「触覚をロボットに与える技術」が「感情を音にする技術」になるという飛躍に、思わず展示の前で立ち止まってしまいました。技術って、想像もしない場所に着地するものだなと思います。

オカムラ「未来の職業展2045」ジェスチャーオーケストラ専用のデータグローブ
展示物のデータグローブ。ロボットハンドの触覚センシング技術が、感情を音に変えるシステムへと応用されています。

「誰でも奏でられる」ということの意味

この表現がほかと違うのは、特別な技術が一切いらない、というところだと思います。

専用のデバイスを装着すると、指の曲げ方、手の動き、腕の軌跡が、音色・音量・リズムといったパラメータにリアルタイムで変換されます。

楽器を弾いたことがない人も、音楽が苦手な人も、「今ここで感じていること」さえあれば音が生まれます。

以前、舞台の仕事をしていたころ、よく感じていたことがあります。ダンサーやアーティストの表現には、どこかで「見られる側」と「見る側」の壁があります。どんなに感動しても、わたしは舞台に立てない、という距離感。ジェスチャーオーケストラは、その壁をひとつ、静かに溶かそうとしているように感じました。

身体の動きが音に変わる様子を表現
身体の動きがそのまま音になる。特別な技術がなくても、誰でも表現できる仕組みです。

ここまで、なぜ今、身体で表現することが大切なのか、そしてその技術がどこから来たのかを見てきました。

わたしはもともと、舞台やさまざまな作品を見るとき、演じ手がどんな気持ちを込めて表現しているのか、ということに思いを馳せながら見る癖があります。だからこそ、感情がどうやって音に変わっていくのか、その仕組みそのものにとても興味があり、そして展示でその仕組みを知ったとき、素直に驚きました。

では実際に、感情はどうやって音に変わっていくのでしょうか。その仕組みや体験して感じたこと、そしてこの表現がこれからどこへ広がっていくのかは、後編で詳しくお伝えします。

Exhibition Info

0次開発Project|まだ存在しない未来の職業展 2045

OKAMURA × 0次開発プロジェクト

会期 2026年6月18日(木)〜 6月26日(金)
10:00 – 18:00(6/18のみ15:00〜)
会場 THE LINKPILLAR 2 14階 オカムラオフィス
東京都港区高輪 2-22-1
(高輪ゲートウェイ駅直結)
入場 来場予約制(当日予約可)
主催 株式会社オカムラ 0次開発プロジェクト
※ 本展示会の会期は終了しています。
この記事は会期中に実際に足を運んだ体験をもとに書いています。